『霊魔伝』其の壱 木の章
《零次朗、油断するな。》
「小太郎か、待っていた。」
いつのまにか小太郎が追ってきていた。しかし、その顔は険しかった。
《零次朗、ここは邪悪な霊気で満ちている。俺でさえ息苦しいぐらいだ。この奥に今まであったこともないような邪気の持ち主がいる。》 
「小太郎、霊魔たちはなんと言っているのだ。」
《二つの意見が大勢を占めている。ひとつは、戸惑いの声。何故ここに引き寄せられたのかわからない。もうひとつは、闇の帝王が誕生しようとしている。それを歓迎する声。》
「闇の帝王だと。何者なんだ。」
《霊魔たちを解放すると言われる霊魔王のこと。霊魔にとっては王でも、零次朗たち人から見たら、邪悪な存在だ。》
「霊魔なのか、そいつは。」
《いや霊魔と人の合体した存在だ。俺もまだ見たこと無い。最後に霊魔王が現れたのはもう数百年も前のことだ。》
「じゃあ、そいつが誕生する前に何とかしなくては駄目だな。」
《そうだ。一度誕生したらどうにもならない。百年は暗黒の時代が続くと言われる。》
「小太郎、その霊魔王はここにいるのか。」
《多分この地下にいる。これだけの霊魔が集まっているということは、この霊魔たちを利用して、霊魔王になろうとしている人がいるということだ。》
「行くぞ、小太郎。」
二人は地下へと続く階段を駆け下りた。地下何階だろうか。もうかなり地下へ降りてきているはずだ。ようやくひとつのドアに行き当たった。ドアには、貯水槽入り口と書いてある。
ひとつ深呼吸をして零次朗はドアを開けた。
「でかいな。」

その圧倒的な空間に驚いた。零次朗が立っているのは、貯水槽の上部にある階段の踊り場だった。そこから貯水槽の底へ降りる階段と、壁づたいに一周できる通称キャットウォークと呼ばれる通路が有った。
「公園の下にこんな大きな空間があるなんて、知らなかった。貯水槽というから、もっと水があるのかと思っていた。」
水はほとんど無かった。いくつかの水路があり、ちょろちょろと流れているだけだった。反対側の壁からは、滝のような感じで水が落ちている。その下には小さな池があり、水路はそこに繋がっていた。
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