『霊魔伝』其の壱 木の章
《おまえの邪悪な心では無理だ。邪悪な心の持ち主は、審判の炎で焼かれる。》
《龍太よ、奴のことを知っているのか。》
小太郎が聞いた。
《奴とは遠い昔、仲間だった。我々は龍の一族。ともに龍の帝国に住んでいた。》
《幻の龍の帝国か。聞いたことがあるぞ。誇り高き龍の一族が住む都だ。》
小太郎が呟いた。
《その龍の帝国を奴は乗っ取ろうとした。その時の戦いで帝国は滅び、そして私は自らを封じた。》
「龍の帝国。確か富士山の地下にあるという伝説を聞いたことがある。」
《零次朗、龍の一族は霊魔の中でも、飛び抜けた力を持つ。しかしその力を使える人間は少ない。》
《そうだ。その力の奪い合いが一度有った。それが零次朗殿も知っているやまたの大蛇の話。その裏で人を欺いて、操っていたのが奴だ。》
『古い話だ。あの時は優れた霊魔使いがいなかった。だから龍の力が八つに分散し互いにぶつかり合った。それを治めたのが、九番目の龍、九頭竜王おまえだった。』
《忘れたか、龍の力を扱える者がいたことを。その方が我々をまとめてくださったのだ。》
「覚えているぞ。忘れるものか。須佐の国から来た男だったな。それ以来須佐の男には頭が上がらなくなった。」
《おまえにはわかるまいが、私には感じる。零次朗殿と契約してわかったのだ。
零次朗殿には、須佐の血が脈々と流れている。おまえには零次朗殿の霊気を奪うことは無理だ。》
「そんなはずはない。須佐の一族は滅びたはずだ。」
 錦部は身体を震わせて、叫んだ。
「俺の中に須佐の血が。」
零次朗は戸惑った。須佐の男とは、素戔嗚尊のことだろうか。まさかそんなことは。
《零次朗、集中しろ。》
小太郎の言葉で、ハッとした。そうだ、今は戦いの最中だ。
『やってみないとわかるまい。行くぞ、九頭龍王。』
錦部の身体から蒸気のようなものが立ち上った。全身のウロコがくっきり浮かび上がり、どす黒く輝き始めた。
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