永遠の約束-聖母の涙-
「姉が実の苗字ではなく、糸川の姓を名乗っているのには、訳があるんですよ」
深青が何に対して難しく考えているのかを、真理亜はわかっているらしく笑いながらそう応えた。
「それは―――…」
「私が、父の反対を押し切って修道女の道を歩むことに決めたからですよ」
キュッキュッという音と共に、修道女の姿をしながら車椅子に乗っている女性が現れた。
「お姉さま!」
真理亜は女性の元へと駆け寄ると、にっこりと笑いながら車椅子の後ろ側へと回る。
そして、持ち手を持ち車椅子を押して深青の傍までやってきた。
この家に入ってから感じた違和感。
その正体を、この時になって深青はわかった。
そうか…。
廊下や至る所に、手すりや取っ手がついていたんだ。
豪華な屋敷なのに、何かしらの違和感を感じた正体はこれだったんだ…。
「いらっしゃい。
真理亜のお友達ね。
よく来てくださったわ。
真理亜ったら、今まで一度だって、お友達を私に紹介してくれたことがないんだもの」
「お姉さま。
それじゃ、私にはお友達が誰一人としていないみたいじゃないですか」
「うふふ。そうね。
でも、この学園じゃ、仕方ないかもしれないわね。
だからこそ、この学園に通いながらも、友達を連れてきてくれたことが、何よりも嬉しいわ」
修道女の衣装を着ているために、顔しか見ることができないが、それだけでも十分、彼女が綺麗な人だということは感じることができた。