KISS AND SAY GOOD-BYE
1月21日の水曜日から、この第3営業課で働き始めて、あっという間に2月に突入している。
《1月は往ぬ、2月は逃げる、3月は去る》と昔の人は言うけれど、本当だなと改めて実感している。
1月26日の月曜日に安西プロデューサーから企画の話が出て直ぐに、企画提案書を作り出したのだが、気が付けば2月2日の月曜日、1週間でまだ半分も書き上がっていない。
と言うのも、俺は安西プロデューサーの所へ営業に行く数日前から、男子留学生達に
《遣ってみたい番組》
と言うアンケートをとっていたんだ。
すると、殆ど全員がチャレンジして成功に繋がる、自分達が成長していく様を見せられる番組が良いと言う結果になったのだ。
確かに面白そうだし、視聴者にアピールするチャンスもある。
良く有りがちな番組の様にも思えるが、実際にそんな番組を毎週放送していたなんて記録は、数えるほどしか無いのだ。
と言うのも、この企画を遣れば、間違いなくプライベートタイムが殆ど無くなってしまうし、撮影するには莫大なテープの量になってしまうからだ。
一人一人に充てたビデオカメラと、引きで撮るカメラ、数ヵ所の定点カメラに、留学生達が独自で回すハンディ等を入れると、1週間で500時間以上のテープを毎週ごと編集していかなければいけないのだ。
これは、ようは造り手が悲鳴をあげてしまうほど、大変な作業をこなして、毎週の放送に間に合わせなければいけない、制作サイド泣かせの企画なのだ。
それが分かっていたから、正直な気持ちAPとして現場の収録に携わるのが嫌だったんだよなぁ…。
でも、遣らないとこの企画は受け入れて貰えないし……
唯一の救いは、APとして携わるというところだ。
これがもしADとしてなんて事になれば、確実にディレクターのテープの編集作業に付き合わされるのは間違いない。
それよりはマシだ!
しょうがない!
腹を括るしかないようだ!
俺はもう半ばヤケクソの様に、頭の中にある全ての構想を吐き出していき、企画提案書を書き上げた。
それをプリントアウトして、きちんとファイリングして表紙を付けてた。
2月4日の水曜日、今日も朝8時半前には出勤してきた。
第3営業課に行くと、玄田課長しかまだ出社していなかった。
「玄田課長、おはようございます。」
『桧山君早いねぇ。
お早うさん。
どうだね!?企画提案書は出来たかい?』
「はい、昨晩深夜に完成しました。」
『見せてもらえるかね!?』
「それがぁ~、実は社長が《絶対に私に一番最初に見せるんだぞ!》と、何度も釘を刺されているので、今から持っていこうと思います。」
『ハハハ……、社長がかぁ~!
相変わらす、新しい企画となるとおっきな駄々っ子みたいだよなぁ~。』
「そうなんですよねぇ~♪」
『まだ~?まだ~?って、何度もデスクに電話掛かってくるし、企画書が出来たら出来たで、食事するのも忘れて何時間もその企画書を読み返しているし、正にあの人は仕事が好きで好きで仕方ない御方なんだと思うよ。』
確かに言えて妙だ。
あの人は、いつも仕事が新たな方向に進み始めると、新しい玩具を手にした子どもの様にはしゃいで、何時間でも時間を忘れて取り組むもんなぁ…。
「そう言うことなんで、今から社長室に行ってきますので、多分朝礼には出席出来ませんので、失礼します。」
と言って一礼をしてから、部屋を後にした。