となりの女の子
次の授業のチャイムが鳴っても、寛太はまだ戻っていなかった。


寛太の席が空いていることに一切触れず、さっさと授業を進める教科担任の様子から、職員室中で話題になっていることは一目瞭然で…

「ねーねー、日沼、よっぽどの事したのかな?」

「えー、知らない。」

興味本意にしか聞こえない彼女の言葉に苛立ちながらも、心配する優菜の頭に授業の内容など入る余裕はなかった。


そんなとき、後方のドアが開き寛太が姿を現した。


一瞬、静まり返った教室は、

「あー、すみません、」

「うんうん、聞いてる。席に着きなさい。」

教師の言葉に一礼した寛太が席に着くまで、

「どした?」

「なんだった?」

「いや、ちょっと。」

といったやり取りでザワつきに変わる。


「はいはい、注目!ほら、こっちだぞー。」


手を叩いて生徒を集中させる教師を横目に

「今どこ?」

教科書を出しながらページを尋ねられ、

「ここ。」

平常心を装ってみせたものの、
寛太の様子に“ただ事ではない”と感じる優菜には質問する勇気はない。

しかし、

(多分・・・だよね。)

授業が終わった途端、

「なになに?なんだったの?」

待ってましたとばかりに、彼女の質問タイムが始まり、

(やっぱりね。)

“調子が良いな”と思いながらも、この時とばかりに耳を傾けさせてもらうことにした。


「なんの話だったの?」

「んぁ?…べつに。」

「べつにってことないでしょ?」

「俺、頭わりーからよくわかんなかった。」

「なにそれー?!なんかやらかしたんじゃないのぉ?」

すると、

「うるせーな!ほっとけよ!!」

寛太の声は教室中に響き渡り…

「な、なによ!」

逆ギレ気味に席を離れる彼女。

その時、誰もが…

“空気読まないアイツガ悪い。”

そう思ったに違いなく…

でも、彼女の行動に期待していた優菜は、この時ばかりは

(ごめん…ありがとう。)

と、心で感謝していた。


以降、この件で寛太に近づく者はいなかった。

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