青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―


「どうしたココロ。なんかムズカシイ顔してるぞ」


彼女に聞くと、「お客さんが」ポツリ、ポツリ、と言葉を零す。

まさか…、俺は出入り口に視線を向けた。

そこにはションボリ顔で俺を見つめてくるお客様一名。


捨てられそうな子犬のような目で見つめられ、見つめられ、見つられ、俺はついつい頭を抱えた。
 

嗚呼、堤さん、また俺に頼みに来たんだな。 

書道出展の一件は随分前から頼まれているけど、その度に断っているっていうのに。その粘り強さにはアッパレだよ、アッパレ。

う゛うぅうっ、そんな目で俺を見るんじゃない!
何もワルイコトをしていない、いや、寧ろ毒舌の波子に暴言を吐かれた被害者だっていうのに、罪悪が出てくるだろ!

なに、この似非罪悪感っ、被害者である筈の俺の立ち位置、完全に加害者に回ってるし!
 

俺が見ていることに気付くと、「センパイィイ!」どうして私を見捨てるんですか、貴方は鬼なんですか、酷いですよ、泣きますよ! と、盛大な非難が。
 

おやめなさい! この倉庫は響くんですよ!

大声で言ったら皆に丸聞こえでしょーよ!


勿論心の中の突っ込みなんて聞こえない堤さんだから、今日こそは頼まれてくださいと懇願。

じゃないと私が地獄を見る、堤さんはオイオイとわざとらしい嘘泣きを演じた後、

「それとも田山先輩は」

鬼畜なんですか! 出入り口で叫ばれた。


「こんなにも頼んでいるのにっ…、人の不幸はなんとやらですか?!

困っている人の不幸が楽しいだなんて、田山先輩の鬼畜っ、ドSっ、サドっ、意地悪ー!
そんなにエスいなら、私、貴方好みのエムになってやりますよ!

さあ、もっと苛めて下さいな! 頼み事を聞いてくれるなら、どんな行為でも受けれて「やめなさい堤さん! 体は大事にしなさい! 先輩怒りますよ!」


だって先輩、ちっとも引き受けてくれないじゃないですか。

ビィビィ出入り口で喚き嘆く堤さんに、近くにいた弥生が苦笑い。

「ケイ」ちゃんと彼女の下に行ってあげなよ、なーんて女子の味方についてしまう。

「熱意はスゲェじゃん」頼まれてやったら? まだ不機嫌のヨウも微苦笑気味。顎でしゃくり、女子の味方についちまう。


そんなこと言ってもさ、堤さんと関わるイコール、毒舌の波子がっ。


……とはいえ、情熱という根性はほんっと逞しい限りだよ。

二日に一回は絶対頼みに来るもんな。

創作の時間を割いてまで頼みに来てくれるってことは、それだけ評価されていることだろうけど。


俺は関わりたくないんだよなぁ、毒舌の波子とは。


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