青騒のフォトグラフ Vol.2 ―夜嵐の不良狩り―
呻き声を漏らして重い腰を上げる。
ヤンヤンギャンギャン喚いている後輩(といえる程の仲でもないけど)に歩む。
その際、ココロの意味深な眼が飛んできたから振り返って一笑。
やんわり笑みを返してくるココロは、なんだか物言いたげな面持ちを作っている。
もしかして嫉妬してくれているのかな?
嬉しいけど、俺にはココロがいるし、そんな心配はない。ダイジョーブだって。
倉庫の出入り口に立つと、「先輩ぃいい」私、泣きますよ…、萎れた声を出す堤さんが恨めしそうな眼で俺を見上げてきた。
だからそんな顔しないでくれよ。苛めちまった気分になるじゃん。
俺は彼女と倉庫側の金網フェンスに寄りかかり、「なんで俺なの?」率直に尋ねた。
「何度も言いますけど」
田山先輩と波子先輩しか、習字が上手な人知らないんですって、堤さんはボソボソと告げてくる。
そんなことないだろ、俺は肩を竦めてブレザーに手を突っ込む。
煙草の箱が左の手に引っ掛かった。
取り出してはみるけど、生憎俺はライターを持っていない。
そろそろライター、もしくはジッポを買わないとな。
ジッポ高そうだし、お手頃な百円ライターが妥当かな。
喫煙できず、俺はその箱を投げて手遊び開始。
横目で眺める堤さんは、「喫煙するなんて」変わりましたよね先輩、と言葉を寄せてくれた。その台詞に茨は巻かれていない。
「習字を習っている時の先輩からは想像できませんよ。先輩が喫煙したり、ピアスをあけていたり、不良とつるんでいたり。不思議な感じです」
「俺も不思議な感じだよ。堤さんに頼み事されるなんて。そこまで親しい仲じゃなかっただろ?
書道もさ、木崎さん…だったかな。
習字教室で一番上手いお姉さんがいただろ? その人に頼めばいいのに。なんで俺なの? おかげで毒舌の波子とまーた関わりを持つようになっちゃったし」
「ふふっ。波子先輩、田山先輩のこと嫌ってますものね」
ほんとだよ、毛嫌いされるような酷いことしてないのにな。
キャッチした煙草の箱を手の平におさめ、「俺の噂、知ってるんじゃないの?」平坦な声で彼女に質問を重ねる。
俺が荒川の舎弟だということは既に知っているだろう。ということはオマケの噂も知っているに違いない。
やったことないけどカツアゲ噂も流されたし、ちょい前は万引き噂も流されたし、フルボッコ噂なんて年がら年中ならぬ日がら日中だ。
なのに、どうして彼女は俺に書道出展を頼もうとするんだろうか?