恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
あたし、今、明らかに矛盾している。


知りたい、分かりたい事だらけで、胸が苦しくて窒息しそうなのに。


知って、分かったその先の自分の姿がまったく想像できない。


それが怖かった。


「待ちなっさー、陽妃!」


「ついて来ないで!」


海斗に呼び止められて、歩く速度を上げた。


「もう話しかけないで!」


顔から火が噴いているんじゃないかと不安になるほど、頬がカッカした。


なんでこんなに苛立っているのか、分からない。


落ち着こうとしても、冷静になりたくても、深呼吸してみても。


気持ちがおさまらない。


冷静になろうとやっきになればなるほど、逆流するように頭に血がのぼった。


のぼせてしまいそうだ。


悲しいのか悔しいのか。


この感情が一体何なのか。


本当に訳が分からなくなっていった。


「意味分かんない」


ガン。


暴力行為でもするような勢いで玄関のド乱暴に閉め、ビーチサンダルを脱ぎ捨て、明りも付けずに暗い廊下を突き進み、居間に飛び込んだ。


明りは一切付けていないのに、窓辺から差し込む月明かりで空間は仄明るい。


異次元のように静かな空間。


あたしはソファーに背中からダイブするように飛び込んだ。


ソファーはこの島に移住すると決めた時に買い替えたばかりの新品のはずなのに、ほこりっぽい匂いとおひさまのこうばしい香りがした。


出掛ける時に戸締りなんてしていなかったから、窓は開け放たれたままで。


そこから暑い夜風が迷い込んで来て、白いレースのカーテンをオーロラのように膨らませる。


レースのカーテンを突き抜けて差し込む月光が妙に眩しく思えて、あたしは目元を腕で覆いながら瞼を閉じた。


バクバク、心臓が暴れ回る。


右足首が疼いてたまらない。


開け放たれた窓から蒸し暑い夜風がゆるりと入って来て、カレンダーをハラハラめくる音がした。


「もうっ……」


顔から茹るような汗が噴き出す。
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