恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
ぐんぐん遠ざかる悠真の姿がすっかり見えなくなってから、あたしは運転席の真後ろいちばん前の席に座り、ほうっと息を吐いてから、たっぷり時間をかけてうつむいた。


1日中、石垣島を歩き回った足が鉛のようにずしりと重く、疼くように火照る。


うつむいたとほぼ同時に、フェリーで聞いた悠真の話が耳の奥でじわりじわりと滲むように蘇えった。


『本当は夕方までおばあのとこに居ようと思っていたんやしが。反れていたはずのカジフチ(台風)が急に進路変えて、うちなー(沖縄)に近づいちょるって』


なんともやるせなくて。


あたしは唇をきつく噛んで疲れ切った膝の上で両手をぐうにして、唾を飲み込んだ。


『夜には上陸するってさ、ニュースで言うもんやっさーからさ』


前方で運転手のおじさんが島唄らしきものを鼻で奏で始めた。


『母さんに頼まれとった物を買ってぃ昼いちばんのフェリーで帰ぇることにしたんさ。でさ、ドラッグストアーに寄ったんやしが』


胸がいっぱいで。


切なさで、胸がぱんぱんになって。


あたしは顔を上げることができなくなってしまっていた。


――こんな物で何回やったってチャーンナラン(どうしようもない)さ。ちゃんと病院行って確かめよう。結果や同じだしよ


――分からねーらんでしょ。次やぁ違うかもしれねーらん


『隣の通路から聞いたことのある声がしたんやっさ』


――今度は違う結果が出るかも分からねーらんさぁ


『ゆーしーねー(もしかして)と思って回って見たら、やっぱり亮介と藍子やたん』


――何回やっても同じだしよ。藍子ねぇねぇよー。ジン(お金)の無駄だに


『声……掛けれねーらんたん(掛けれなかった)』


――ほっといてよね。わんぬ勝手ぃーでしょ


――なに逃げちょるんだしよ。逃げたってどうにもならねーらん


――やてぃん!(でも) 悠真の……あんにかもしれねーらん(じゃないかもしれない)


膝の上で握っていた手の甲にぽつぽつ落ちたのはあたしの涙だった。


でも、どうすることもできなくて。


涙が止まらなくなってしまって。
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