恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~
動揺を隠し切れずしどろもどろのあたしを見て、おばあが納得したように「そうかね」と頷く。


「気付きよったか」


「あの……おばあ……」


なんとかやっとの思いで声を絞り出したあたしの声を、


「海斗って……この島の子じゃ――」


「陽妃」


しゃがれた声でぴしゃりと遮って、おばあがずいっと顔を近づけて来た。


なかなかの迫力に「う」と声が漏れる。


「海斗やぁくぬ島の子やっさー。与那星の子だしよ」


オバァが言えることやそれだけさぁー、とおばあはズボンのポケットに手を突っ込んで、あたしに手のひらを出すように言った。


「……こう?」


首を傾げながらも、言われたように右手のひらを上にして差し出すと、


「相変わらずシル―(白い)手ぃだねぇ」


おばあはズボンから手を抜き出して、あたしの手のひらにそおっと直径5センチほどの黒い布製の巾着を乗せた。


「……何、これ」


さっきよりも角度をつけて首を傾げたあたしに、あの無愛想なおばあが微かに微笑んだ。


「くりや(これは)、海斗からやんど」


「海斗から?」


「いー」


ゆっくりとおばあが頷く。


「海斗が置いて行った。陽妃に渡してとらせって」


――自分で渡さないのか?


――渡せないよ。陽妃にい嫌われちゃったからさ


おばあの話を聞きながら、あたしはじっと手のひらのそれを見つめた。


黒い巾着が月光を吸収して、エナメルのような光沢を放つ。


――もうさ、陽妃には会えないよ……


「もう話しかけられなくなったからさ、オバァから渡してとらせ、って。海斗や置いて行ったよ」

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