泣き顔にサヨナラのキス
「そんな顔をしてると、キスするよ」
「い、今はダメだよ。話があるの」
言わなくちゃ。話が終わっても、キスしたいって孝太が想ってくれればいいな。
なんて、都合のいいことを心の隅で祈った。
「あたし、今日原口係長と一緒だったの」
驚いたように孝太が目を見開いた。無理もない。
会議を理由に孝太の誘いを断っておいて、他の男の人と一緒だってなんて、誰だっていい気はしない。
「今日は、偶然お店で一緒になったんだけど。異動する前は、何度か誘われて一緒に飲んだことがあって……」
孝太は表情も変えずに「それで?」と言った。