泣き顔にサヨナラのキス
    

「冷奴は待っててね。店長の目を盗んで持ってくるから」

そう言って、弓枝ちゃんは去っていった。

さっきから想っていたけど、弓枝ちゃんって、あたしの事をチラリとも見ない。


別にいいけど、何か笑っちゃう。


「ね、カナ。何か言い掛けなかった?」

「ううん、なんでもない」

もう、いいの。その言葉はビールと一緒に呑み込んでしまおう。

これ以上、孝太を困らせたくないし。鍵を貰えたからそれで十分。

それから、乾杯をして生ビールを喉へと流し込む。

その頃には、昨日の喧嘩の事なんて、どうでもいいことのように想えた。





< 495 / 614 >

この作品をシェア

pagetop