泣き顔にサヨナラのキス
「冷奴は待っててね。店長の目を盗んで持ってくるから」
そう言って、弓枝ちゃんは去っていった。
さっきから想っていたけど、弓枝ちゃんって、あたしの事をチラリとも見ない。
別にいいけど、何か笑っちゃう。
「ね、カナ。何か言い掛けなかった?」
「ううん、なんでもない」
もう、いいの。その言葉はビールと一緒に呑み込んでしまおう。
これ以上、孝太を困らせたくないし。鍵を貰えたからそれで十分。
それから、乾杯をして生ビールを喉へと流し込む。
その頃には、昨日の喧嘩の事なんて、どうでもいいことのように想えた。