泣き顔にサヨナラのキス


それなのに……

あたしの心は上の空で、ここに居る筈もない人のことを想っている。


「山本さん?」

「あ、はい?」

「俺の話、聞いてる?」

「ご、ごめんなさい。ちょっと、ぼんやりしてました」

そう言うと、田中君は申し訳なさそうに目を伏せた。


「……迷惑だった?」

「……そんなこと」

そのまま、暫く無言で歩いた。


前を歩く野上さんと孝太くんが人ごみに紛れて見え隠れしている。

このままだと逸れてしまう。追いつかなきゃ。そう思ったとき



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