泣き顔にサヨナラのキス
「……花火に行って来たのか?」
すぐ目の前に迫った原口係長が発した言葉に息が止まりそうになった。
「と、途中で帰ってきました」
「だろうな。終わるには時間が早い。で、ここで何をしてるんだ?」
意地悪なその言い方に胸がズキズキと痛み出す。
「……忘れ物を取りに来ました」
そう言って、原口係長の顔をキッと睨みつけた。
バカにするにも程がある。あんな綺麗な恋人がいるのに、毎週金曜日にあたしを抱くなんて。
情けなくて悔しくて、涙が込み上げて来るのを唇を噛んで我慢した。
「忘れ物?言えば会社に持って行ったのに」
どうでもいいことのようにそう言うと、「部屋入るだろ?」と背中を向けて歩き出した。