泣き顔にサヨナラのキス
……信じられない。
恋人をタクシーに待たせたまま、あたしを部屋に招き入れると言うの?
こんな人だなんて、思ってなかった。
「最低っ」
吐き捨てるようにつぶやいて、あたしは駅に向かって走り出した。
早くこの場から離れたいのに、浴衣の裾が足に絡み付いて少しも前に進めなかった。
……だから
腕を掴まれて強引に引き寄せられると、あたしは簡単に原口係長の腕の中に閉じ込められた。
「離してくださいっ」
「何か勘違いしてないか?」
「してません!」
顔を上げて睨み付けると、原口係長は盛大なため息を吐いた。