泣き顔にサヨナラのキス

「部屋に来るだろ？」

少しだけ掠れた低い声に、惑わされるようにただ頷いた。

原口係長はあたしの手を引いて、エントランスを抜けると無言でエレベーターに乗り込んだ。


流されてはダメ。頭ではそう思うのに、逆らうことが出来なかった。

これじゃ、今までと何も変わらない。

はっきり、言わなくちゃ。


だけど。

捕まれている手首が熱くて思考が上手く働かない。


玄関のドアを閉めると、原口係長は乱暴にあたしを壁へと押し付けた。


「やっ」

驚いて原口係長の顔を見上げると、少し怒ったようにキスをする。

「浴衣なんか着て、誰と一緒だったんだよ？」