泣き顔にサヨナラのキス
 

無意識に原口係長のシャツを握りしめていた。

「あたしが、彼女?」

恐る恐る顔を上げると、原口係長は「違うのか?」と確認するようにあたしを見詰めた。

……本当に?

原口係長の言葉が信じられなくて足が震えた。 嬉しいけど。まだ素直には喜べない。

だって。


「じゃあ、さっきの人は誰なんですか?」

「涼子は高校の時の同級生。今日は共通の友人の結婚式に行ってきたんだよ」

だから、あたしの誘いを断ったんだ。


「だったら、昨夜そう言ってくれれば良かったのに」

「お前が急に帰るからだろ」

「電話ぐらい、してくれたって」

「掛けたけど話中だった」

「メールも無かったし」

「俺、お前のアドレス知らない」

「…………」

「…………」

顔を見合わせて、同時に吹き出した。





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