泣き顔にサヨナラのキス


殺風景な玄関で、もう一度キスをした。

押し付けられていた壁からそっと剥がされて。

「ベッドに行くか?」

意地悪な顔で笑う原口係長の胸に顔を埋めて小さく頷くと、次の瞬間にはあたしはその逞しい腕によって抱き上げられていた。


「ちょ、ちょっと、降ろして下さい!重たいから」

「いいから。それより履いてるもの、脱げよ」

そう言われて、下駄を片方ずつ振り落とす。

カラン、カランと乾いた音が響くと、なんだか急に恥ずかしくなった。

――…好き。

原口係長からもその言葉を聞きたい。


「あ、あの。あたしのこと好き?」

「……好き、だな」

ボソッと落とされた言葉に胸が熱くなる。

嘘みたい。少し前まで、あんなにショックを受けていたのに。


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