ある夏の物語
いた!



フェンスの向こうを眺めている美鶴の背中を認めた瞬間、あたしはその場にへたり込んだ。



その音に気付いた美鶴は勢いよく振り返る。



「郁…!」



どうしたの、と美鶴は駆け寄ってきてくれた。



あたしは夢中で美鶴に抱きつく。



「郁。」


「美鶴!
美鶴、美鶴!」



名前を連呼するたび、美鶴は落ち着いた声で返事を返した。



「学校は?」


「それを言うなら美鶴もでしょう!?」



どうして学校来ないの、とヒステリックに叫ぶと、美鶴はやっぱり落ち着いた声で答えた。



「郁がここに来たってことは、もうみんな事件のこと知ってるんでしょ?
なら、行ったら俺は保護される。」


「されなさいよ!」


「嫌だよ、保護って言っておきながら、監禁されるでしょ。」



さらりと言ってのけ、美鶴はあたしを引っ張って立たせた。



「よくここだってわかったね。」


「美鶴がいそうな場所、ここくらいしか思いつかなかった。」



その辺が郁ってちょろくないよね、と美鶴は嬉しそうだ。



笑ってんじゃないわよ、あたしがどれだけ心配したかと思ってるの。



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