ドラマチックスイートハート
「記憶がない!?」
昼下がりの病院。
医師を目の前にしたコウは、大声を上げた。
「落ち着いてください。事件があった事のみを失ってしまったそうです。なので、自分が今病院にいる意味も分からない状態でしたが、隠すワケにもいかず、家族が亡くなった事は伝えてあります」
「……」
そのまま、唖然としてコウは聞いている。
それを見てか見ないか分からないが、医師は話を続ける。
「医師としても、患者のショックがでかいので事件の事を思い出させたくありません。本人もそう望んでいます。犯人も逮捕されていますし、あまり触れないようお願いします」
本人も望んでいない……?
その言葉を受けて、医師との話は終了した。
そのまま診察室を後にし、由奈の病室にゆっくりと向かった。
歩きながら、思い詰めた表情で……
ガラガラ……
1人部屋の由奈は、窓から見える空を眺めている。
ゆっくりとこちらを振り向いたその顔は、泣いているワケもなく、感情が剥がれ落ちた能面の顔を見せていた。
「コウ……」
そう呼ばれ、一歩一歩近付く