王様の、言うとおり
夕方だから涼しいはず、なんて言ってたけど全然。
朝からずっとクーラーの効いた場所にいた私にとってはもう暑くて暑くて。
走ったわけじゃない。
ただゆっくり歩いただけなのにこうして汗が浮かぶ。帰ったらすぐにシャワー浴びて寝よう。唯一持っていたハガキも既にポストの中。手ぶらで自分の足から伸びる影を見つつ、歩く。
「菜月ちゃん?」
ふと。
呼ばれて顔を上げた。一瞬、どこから呼ばれたのか分からず前、そして後ろを見ても道路には自分しかいない。
あれ?と思っている間にも、あぁ、やっぱり菜月ちゃんだ。と笑いを含んだ声が聞こえて、視界に入った。
『あ。』
「久しぶり、今帰り?」
斜め前の方。
門の向こうから顔を出している、
キングの、お母さん。
私が気付いたと分かるとゆっくり笑みを浮かべて手を振られた。
『お久しぶりです。』