月物語2 ~始まりの詩にのせて~
礼は言った。
男がゆっくりと、顔を挙げる。
やはり、どこか具合が悪そうだ。
「お初にお目もじ仕ります。明道と申します。」
明道と名乗る男が、再び深く頭を下げた。
「で、用件は?」
なるべく、平坦な口調で言った。
礼は、諸々を延期されたことに、怒っているわけではない。
冷静さを、保とうとしている。
明道が口を開いた。
「楊震太僕、―――」
その名だ。
どうしてその名に引っかかっているのだ、と礼は思った。
「楊太僕について、ご報告があります。」
明道が許可を求めている。
「申してみよ。」
「簡潔に申し上げます。
楊太僕が、子州で賊徒に捕らわれ、それを単独で二官柴秦が追っております。」
高官たちが、どよめいた。