穢れなき獣の涙
 右手を傷口にかざし、口の中で小さく何かを唱える。

 すると、手から淡い光が浮かび上がり、開いていた傷口が少しずつ塞がっていく。

 そうしてついには、傷跡さえも消え失せた。

「凄い!」

「お前ハ、ウィザードか」

「魔法戦士(ウィグシャフタ)だよ」

 傷口がふさがったことを確認して立ち上がる。

 朝陽が差しているとはいえ、高い木々の枝にまとう葉が与える薄暗さには、妙な不安があった。

「皆が探している」

 それを聞いたケジャナルはヤオーツェに顔を向ける。

「早く戻レ」

「でも──!」

 ためらうヤオーツェを一瞥し、人間に視線を移した。

「このこトは黙ってイてもラえなイか」

「何故だ」

 起伏のない問いかけにケジャナルは何度か瞬膜を閉じ、威嚇するように歯を剥く。
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