穢れなき獣の涙
「そんな魔法があるんだ」

「補助魔法だがね。あとで教えよう」

「ありがとう!」

「さて、行くぞ。ゆっくりもしていられん」

 ユラウスの声に、一行は再び北に向かって馬の脚を進めた。

 寒々とした大地は景色を変えることもなく、遠方に見える山を飾る雪は溶けることも無いのだろう。

 鋭く尖った形状がまたことさらに寒さを誘う。

「気分が滅入るな」

「見晴らしが良い」

「前向きな発言だよね」

 常に明るいマノサクスに呆れつつアレサは手綱を握る。

 気にかかるのはシレアの態度だ。

 今まで彼が躊躇うことなどなかった。

 しかし、錬金術師に会うとなったとき、彼は表情には出さなかったが明らかに戸惑っていた。

 シレアは何故、何を思い、足を止めたのだろうか。





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