穢れなき獣の涙
 それは小型のものではなく、隠れる様子も見せずに枯れ葉や小枝を踏みしめてゆっくりと向かってきていた。

 脇に置いてある剣に手を伸ばす──暗闇から現れたのは、黄金色に輝く瞳をじっとシレアに向け、艶のある灰色の体毛にほっそりとした柔軟な体をくねらせて歩く肉食獣。

 こちらを攻撃する意思はなさそうだ。

 ふと、口には何かをくわえている。

 シレアを警戒させないためなのか目を合わせ続け、くわえていたものを離すと暗闇に消えていった。

 一体、どうしたことかと獣が置いていったものに近寄ると、そこにあったのは獣が好んで食べる獲物の兎だった。

「またか」

 ひとかじりもしていない。

 まるで、神に供物を捧げるかのように、たったいま捕ってきたのか生暖かい。
< 64 / 464 >

この作品をシェア

pagetop