穢れなき獣の涙
 しばらく進むと少し拓けた場所に出た。

 そこには、一軒の古びた家がぽつんと身を潜めるように建っている。

 シレアは怪訝な表情を浮かべ、警戒しながら建物に近づく。

 あちこちに苔が生え、壁には陽を求めるようにツタが屋根に向かって伸びている。

 側にある小川は水量は少ないものの、小魚の姿が見えた。

 ゆっくり扉を開き足を踏み入れる。

 部屋の隅には埃(ほこり)が溜まってはいるが、一枚板の薄汚れたテーブルには細かなゴミすらも落ちていない。

 暖炉には火は灯されておらず冷えてはいるけれど、長らく使われていない訳ではなさそうだ。

 古い家だが人が住んでいた形跡がある。

「これは──」

 首をかしげるシレアの耳に微かに人の声が響いた。
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