彼岸と此岸の狭間にて

(こんな路地裏に入っちゃってるけど大丈夫なの?何か出そうな気がするけど…)                       

暫らく歩いて行くと右手に『佐竹道場』と書いてある看板が見える。                 
「では、手始めにここから…」                      
(今、『手始めに』に言ったよ、『手始めに』って…)                                
葵の心配を余所(よそ)に『ズカズカ』と門を潜(くぐ)り抜ける。                             
「御免!」                   
(何もそんな大声を出さなくても…)                   
衝立(ついた)てのある入り口から道場が見える。それ程大きくはない。道場には1人の姿も見えなかった。


道場脇の廊下から軋(きしむ)音が聞こえて来る。                             
間もなくして現れたのは背は高いが『ヒョロッ』とした一見書生風の男である。            
「御用の向きは?」               
「先生に一手ご指導願いたい!」

「はっ!暫らくお待ちを」            
それだけ言って男は走って奥の方に消えていった。                    
後ろで見ていた葵は山中の堂々とした姿を見て「本当は剣の達人かも!?」と考え始めていた。                             



随分と待ったような気がする。やっと先程の男が現れる。                      
「お待たせいたしました。誠に申し訳御座らぬが、先生、これから所用の為外出せねばならぬとの由(よし)にて本日はお相手いたし兼ねますとの事で御座ります」

「左様か。それなら致し方ない。では、後日改めて…」                       
山中とともにそこを出ようとした時その門下生に呼び止められる。
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