彼岸と此岸の狭間にて

「お待ち下され。折角お越し戴いた手前、少しではございますが…」                 
その男が何か袋のような物を差し出している。               
「それはかたじけない。では遠慮なく。先生に宜しくお伝え下さい」            

山中はそれを受け取ると袂(たもと)に入れて葵とともに門を出る。                 
葵には何をやっているのか全然理解できなかった。             
「何を貰ったのですか?」            

山中は袂から取り出すと葵の目の前でその袋を開いて見せる。                    
「お金じゃないですか!?」           
(価値は分からないけど…)           
「お駄賃ですか?」               
「ははははっ、葵殿は愉快ですなあ!簡単に言うと『口止め料』ですよ」               
「意味が分かりませんが…」

「ここの道場主は『腰抜け』と言い触らさないでくれ、まあ、そんなところですか!?」

「『腰抜け』って、用事があるから今日は戦えないのでは?」

「嘘、嘘!奥の部屋で昼飯を食っているか、酒でも飲んでいるかのどちらかで御座るよ」

「嘘なんですか?」               
「考えても御覧なさい!仮に負けて看板を持っていかれたら明日からご飯が食べれなくなるでしょう。

また、死んでしまうのは言うに及ばず、一生残るような傷を負ったらそれこそ馬鹿臭い。それなら多少の『口止め料』は安いものですよ」                  
「そんなものなのですか!?」

「こんな天下太平の世の中で剣の腕を磨こうとする者は皆無に等しいでしょう」            

(テレビの時代劇とは全然違うんだ!)
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