彼岸と此岸の狭間にて
「そうだなあ…俺は遠慮しとくよ…」                   
「そう、じゃあ、またね。今度、電話する」                

二人の楽しそうな後ろ姿を見て少し後悔した葵であった。            
(ますます綺麗になったなあ…)                                                                                                               



「ただ今〜っ」                             
台所では母親と美優が夕ご飯の支度をしていた。              
「お兄ちゃん、お帰り〜っ。今日は美優の特製『カレー』だよ。舌がとろけるでごじゃるよ」                  
「何じゃ、そりゃ!?……あっ、今、駅前で香澄に会ったよ」

「あら、まあ!!綺麗になってたでしょう?」               
「そこそこね…」                
「お兄ちゃんの愛しの君だものね!?」                  
「下らない事言ってるんじゃない!!」                  
「顔、赤くなってるよ」             
「美優、お前は…」               
「キャーッ!!」                
「ほらほら、戯(じゃ)れあうなら向こうでやりなさい!!」                                
土門香澄とは小中と一緒だったこと、家が近いということもあって母親同士は大変仲が良かった。ただ、葵と香澄が別々の高校に行くようになってからは以前程の交流はなくなっていた。                                   
「父さんは?」                 
「今度、父さんと母さん、『青柳』さんの仲人するでしょう、だから、その打ち合せも兼ねての飲み会…」            

「ふ〜ん」

葵は台所を出て部屋に向かう、が、途中、誰かの声を聞いたような気がした。 

(ん、気のせいか!?)
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