彼岸と此岸の狭間にて
〔3〕         

「参った!」                  
(あれぇ〜っ、山中さんの声じゃないぞ!!)               
葵は木刀が『当たる!』と思った瞬間、目を閉じてしまった。                     

恐る恐る目を明ける。葵の向かい側に沢山の門下生が集まっている。                 
葵も事の真相を確かめようと立ち上がると、急いで駆け寄り門下生を掻き分ける。                                                           
山中の木刀の切っ先が仁王立ちしている榊の喉元を捉えている。

見れば、榊の木刀が床に垂直に突き刺さっている。咄嗟(とっさ)に山中が身をかわし、そのまま打ち込んだ榊の木刀が床板と床板の間に挟まったようだ。                         
安堵から山中に抱きつく。            
「良かったですね!!」       
「紫馬殿、ご心配おかけ申した」                                                                                                         


それ相当のお金を貰って帰路に付く二人。外はかなり暗くなっていた。                 
「普通、看板を戴くのでは?」

「はははっ、看板を貰っても腹は満ちませぬ…それよりもお金ですよ、お金!」                
「これで随分なお金になりましたね!?刀を取り戻せるのでは?」                  
山中の表情が曇る。                       
「実は、拙者には妻と子が3人いるのですが、妻が2年程前から肺を患いまして、医者代や薬代で…そう簡単には…」                   
「そうだったんですか!?じゃあこのお金は私より山中殿が…」

「いやいや、それはそれ、これはこれですから…」
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