彼岸と此岸の狭間にて
〔4〕         

一雨来そうな空模様である。                       

葵と美優は東京の奥多摩に住んでいる祖父母の家を訪ねて『青梅線』という在来線の電車の中にいた。              

「美優、傘持って来た?」            
「ううん…でも、コンビニで買えば良いじゃない!?」

「そうだな…」                 
電車内は土曜の朝早い時間帯ということで『ガラガラ』状態であった。                
「お祖父ちゃんの家に行くのは久しぶりだね!?」             
「そうだなあ…一昨年の正月以来か!?」                 
葵の祖父母は両方とも教師であった。祖父は都内で中学校の校長を、祖母は都内の高校で国語の教師をしていたが、定年後は悠々自適な自給自足の生活を送りたいと山間の村に引っ込んでいた。                               
葵はまだ『巻き物』の事については誰にも話してはいなかった。別段、秘密にしたいというわけではなかったが、余りにも謎の部分が多すぎてどう話していいか分からなかったのだ。                          
窓に水滴が付き出した。             
「お兄ちゃん、降って来たよ!」                                  
梅雨の時期特有の鈍(どん)よりした雲から落ちてくる雨は車窓に斜めの軌跡を残して消えていく。                                                   
『次は終点、F駅です。どなた様も…』                  
車内アナウンスが目的地が近い事を教えてくれる。             
「お祖父ちゃん、迎えに来てくれているかな!?」             
雨を恨めしそうな顔をして眺めている美優。                
「一応、連絡はしてあるけど…いなかったらタクシーに乗れば良いじゃん!」             
「それもそうだね!」              

電車は静かに動きを止めた。
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