彼岸と此岸の狭間にて
雨が少し激しくなってきた。
段々と人家も少なくなって電柱だけの光景が葵の眼前を通過する。
「何か聞きたい事があるんだって?」
祖父の口から思いも寄らない言葉が洩れる。
「えっ?」
「昨日の夜、公彦(葵の父)から電話があってよろしく頼むよ、って言われてさ…」
「うん…向こうに着いてから話すよ」
「そう…」
祖父はその後は口を開かなかった。
これに比べ後部座席は遠足である。『キャッキャッ、キャッキャッ』と騒がしい。
(女3人寄れば姦[かしま]しいと言うが、二人でも十分だ!)
急に車が上下に揺れ出した。舗装道路が終わり、山の土の道に入ったらしい。勢い良く水飛沫(しぶき)をはねあげ、ワイパーが激しく動いている。
道の両脇にある山の斜面が迫ってくるかと思えば、右に左に蛇行する。理由は明瞭だった。対向車がない事を祖父は知っているのでかなりのスピードで走っているからだ。
げんなりした頃に視界が急に広がる。広大な畑作地帯である。全部、祖父母が開墾した物だ。野球場二つ分ぐらいはあろうか!?
「さあ着いたぞ!」
わらぶき屋根のいかにも『農家』という家の前に車を停め、雨の中、トランクから荷物を取り出し、急いで家の中に駆け込む。