彼岸と此岸の狭間にて
〔5〕         
新宿に着く頃には雷も鳴り出していた。                              
店の前に着いた途端『ポツリポツリ』と雨が落ち始めた。                      
店の戸を開ける。                
酒とともに蒸した匂いが葵の鼻に飛び込んで来る。             
(ウゲーッ!やはり、この匂いは苦手だ)                             
4人掛けの木の卓が10。ほぼ満席状態であった。                                  
見渡す葵。それに気付く山中。                      
「葵殿〜っ、こっちこっち」                       
いつの間にか紫馬殿から葵殿に呼び方が変わってしまっていた。                    
山中は一番奥の壁際の席に2人の浪人風の男といた。                
葵は狭い店内を体を横にして擦り抜けるようにして山中の席に辿り着く。               
「待ちましたか?」               
「いや、拙者等も今来た所で御座る」                   
葵は山中の横に腰を下ろす。                       
「あっ、紹介しよう。こちらが『土門重吉郎』殿。そして、こちらが『菱山幸之新』殿で御座る…こちらが『紫馬葵殿』…」                
「お初に掛かります。私、『紫馬葵』と申します。以後、お見知りおきを…」             
二人とも黙って頷くだけであった。

葵の向かって左側の男、『土門重吉郎』は丸顔で目が細く口が小さい。そして、右側の男、『菱山幸之新』は細面で眼光鋭く、右頬から口元にかけて刀傷があった。一見して一癖も二癖もありそうな男達という事が分かった。                     
「実は葵殿に紹介したかったという御人はこの二人だったのだが……申し訳ない」                       
山中が突然卓に手を付いて謝る。                       
「どうしたんですか、一体?」
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