『霊魔伝』其の弐 火の章
「小太郎、どうしたらいい。」

 零次朗が振り向くと小太郎は頷いた。

《大丈夫。その老人はこの結界の案内役。名前を聞くんだ。もし名前が無いと言ったら、付けてやれば、喜ぶ。》

「そうか、わかった。」

零次朗は老人について鳥居をくぐった。そして声をかけた。

「すみません、ここは初めてなもんで。」
自分でも緊張しているのがわかった。

「僕は零次朗と言います。おじいさんのお名前は。なんと呼んだらいいのですか。」

《ふぉ、ふぉ、わしをおじいさんと言ったな。何故おじいさんと言うのかの。ここでは、見たものが真実とは限らんぞ。ふぉ、ふぉ。》
と振り向きながら言うと、突然白い狐に変わった。

「あっ。」
零次朗は思わず声を上げた。

今まで多くの霊魔を見てきたが、目の前で変身したのは初めてみた。

と、瞬きをした途端、元の老人に戻っていた。

狐に変わったのは目の錯覚だったのか。
そう思う一瞬の出来事だった。

《見るだけではなく感じなさい。心を研ぎ澄まし、波動を感じることが大事。名前はずっと以前に付けてもらったが、忘れてしまった。好きなように呼ぶがよいぞ。ふぉ、ふぉ。》

「好きなようにって言われてもな。小太郎、どうすればいいかな。」

《零次朗、せっかく以前の名を捨てて、新しい名をくれというのだから、付ければいい。滅多にないぞ、霊魔が名を変えると言うことは。》

「そうか。じゃあ、さっき一瞬白い狐に変わったから、白い狐の老人と言うことで、白狐老はどうだ。」

《『びゃっころう』か。良い名じゃ。気に入った。ふぉ、ふぉ、ふぉ。》
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