幕末女剣士~新選組~
お互い言葉はない。
ただ、静かに腰を下ろして庭を
黙って見つめる。
そこから微かに聞こえる話し声。
静寂に包まれた八木邸は小さな
音も拾い上げる。
「平助、何か聞こえない?」
「あぁ、聞こえる」
アタシたちは立ち上がって声のする方
へと向かった。
近づいてみるとそこには
泣き崩れている明里さんと
柵付きの窓から話す山南さんの姿があった。
「明里、本当にすまない…」
「嫌や山南はん!」
「明里…君は故郷に帰って幸せに…」
「嫌!山南はんが居てくれないん
やったら、うちは幸せになれへん!」
「明里…」
「山南はん、なんでうちを身請け
したん…?こんなの、辛いだけや…」
「明里、貴女には幸せになって
欲しかった…」
「なら、山南はんが幸せにして、
うちを幸せに出来るんは山南はん
だけなんや」
固く握りあっていた筈の掌は
意図も簡単に解けてしまう。
「明里、貴女を愛しています。
今も、これからもーーー…」
それだけ言うと無情にも
閉められてしまう窓。
それが二人の最後を物語る。
アタシと平助は陰からその様子を
見ているまま何も出来ず立ち竦んでいた。