ゼロクエスト ~第2部 異なる者
「エド、退いて!」

落下物が来ないタイミングを見計らった私は、押し退けるようにして急いでエドを退かすと――。

ドゴッ!

私はアレックスの綺麗な白い頬を、思いっきりグーで殴っていた。

彼は右ストレートをまともに食らい、背後の壁へ上半身を打ち付けていたが、私は構わずにその胸倉を掴んで引き寄せる。そしてよく聞こえるように、その形の良い耳許で怒鳴った。

「いい? アレックス!
今はこんな所でヘコんでいる場合じゃないのよ。
こんな場所にいつまでもいたら、あんた本当に死ぬわよ。そんなことになったら、元も子もないでしょう?
あんたが『倒す!』と息巻いていた魔王だって、永遠に倒せなくなるんだものね!」

「……魔王」

彼の身体が反応するかのように微かに揺れると、色素の薄い金色の前髪が額の上に、はらりと落ちた。

「そうよ。あんたは英雄の末裔だって、自分で言っていたわよね。
つまりあんたの先祖は精霊に選ばれた、特別な人間なの!
だから代々受け継ぐその使命を果たすため、愛する妹(リア)のために、魔王の元へ一人で赴いたんじゃなかったの!?」

「そう……そうだった。この俺が……精霊に選ばれしこの俺が魔王を倒すことこそ、リアの……そして我が一族の悲願……!」

彼は突然覚醒でもしたかのように、カッと目を見開いた。そこへ透かさず畳みかける。

「だったら、あんなザコ魔物相手にちょっとやられたくらいで、落ち込んでなんかいられないじゃない。
そんなことをしている暇があるんだったら、少しでも鍛練を積みなさい!
このままだと使命を果たせないどころか、あんたを選んだ精霊や尊敬する偉大な英雄、そして愛する妹にまで愛想を尽かされちゃうわよ」

「――! うむ、そうであった。
このままでは、我が偉大なる先祖、そしてリアに顔向けができん!
……そうだ、俺はここで立ち止まっている時間などなかったのだ!!」

ようやく彼の目に、光が戻ってきたようである。
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