マバユキクラヤミ
メマイ
 あくる日の午後も、ボクは心躍るままに件の公園に出向いた。アイは昨日と同じ服であのベンチに座って、ボクを待っていた。子犬も一緒である。
「あ、お兄ちゃん。来てくれたんだね。」
 自転車を押して公園に入ってきたボクを見て、アイは声をあげた。満面の笑顔が真夏の日差しに輝いている。ボクも自然に表情がほころんで、アイの微笑に手を上げて応えた。
 その日もボクの感覚は冴えていた。公園を描き、空を描き、雲を描く。そして、アイが昨日と同じようにおねだりを始めた。
「お兄ちゃん、今日もアイのこと、描いて。」
 伏せ目がちにボクを見上げるアイ。その瞳に、またも妖しげな色香を漂わせる。なんとも不思議な少女だ。すると、それを見透かしたかのように、アイは小首を傾げて一言。
「アイは、変?」
 ボクは少し黙って、アイを見つめ返した。
「そうだね、他の子がどうなのか知らないから、アイちゃんが変なのかどうかは解からないけど…。アイちゃんが一緒にいてくれるのはうれしいよ、ボクは。」
 そういい終えて、ボクははっとした。今の台詞、言葉通りにとれば、告白ではないか。少し不安になりながら、そっと横を見ると、アイはきょとんとしてボクを見つめている。が、すぐさまボクの腕にしがみついて、目を閉じた。
「よかった。絵の上手なお兄ちゃんが、いつも一緒にいてくれるんだ。」
言いようの無い幸福感がこみ上げる。ヒグラシの声が大きくなった。
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