Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「気のせいじゃね?じゃな」
俺は早口に言って今度こそ通話を切った。裕二は腰を浮かせてて、恐る恐るインターホンのモニターを覗こうとしている。
こちらが『応答』しなければ、相手方にこちらの様子(声)を知られることはないけど、何となく身を潜ませたい気持ちは分かるかも。
モニターには、昨日裕二を会社まで追いかけてきた、見覚えのある女のアップが映しだされている。
それを見ただけで二人とも思わず後ずさりしたくなった。
「裕二、スマホ貸せ」
俺がモニターから目を離さずに手だけをくいくいさせると、訝しく思ったものの素直に俺の手元に自分のスマホを置く裕二。
俺はスマホの電源を切った。
綾子の疑い深い台詞。ぜってー裕二に掛けてくる筈だから、そうなったら元の木阿弥だ。計画は順調に進んでいる。ここでオジャンにするわけにはいかねんだよ。
裕二が綾子に真相を伝えられないワケ―――
それは綾子を巻き込みたくないから―――だ。
後は瑠華がどれだけ綾子を引き止められるか、だが。
こちらも終わったときに瑠華に電話をするように伝えてあるから、俺自身の携帯も切っても問題ないだろう。
プツリ―――……
携帯の画面が暗くなり、完全にシャットダウンした。まるで外界からの攻撃を避けるように。
さぁ
はじまりだ。