Fahrenheit -華氏- Ⅱ
リビングで待っていた裕二が女の登場にあたかも『今気づきました』と言う態度でリビングから顔を出し(注:全部演技)、裕二の登場に女が明らかにほっとしたような表情を浮かべた。
「裕二、この人お友達?」と俺の方を見てちょっと不安そうに眉を寄せる。
「…ま、まぁ…?そんな感じかな……とりあえず入ってお茶でも…」
用意してきた台詞が妙に台詞臭くておまけにこっちが頭を押さえたいぐらい棒読みだったが、それ以上に『俺』と言うイレギュラーな存在の登場に女も困惑している様子。だから多少裕二の態度が不自然でも気にした様子はない。
ここまでは打ち合わせ通りだ。
作戦は―――……驚くことに瑠華が考えてくれた。
瑠華は最後の最後まで乗り気ではなかったが、きっと綾子の為を想ってだよな……しぶしぶと言った感じではあるが、だが確実に女を追っ払うよう作戦を練ってくれた。
掴みはOKだ!
裕二は女をソファに座らせて、“俺が”『あたかも慣れている』と言う感を出しながら、その横でコーヒーを淹れているのを手伝うフリ。
「裕二~!おまっ!これ賞味期限切れてっぞー。俺が居なきゃ何も管理できねんだよな」
と、ブツブツわざと大きめな独り言を漏らしては、ちらりと女の方を見る俺。
「あー、わりっ……」
裕二も俺の演技にノってくる。
女が俺たちの“関係”を不思議そうに……いや、いっそ怪訝そうに勘ぐっているようだ。
『いいですか?そもそも同性愛者の方々はどちらかが男役、どちらかが女役とかありません。
ですから必要以上に女っぽく振舞う必要はないのです。
いつものあなた通り、振舞ってください』
と、直前に瑠華から受けたレクチャーを思い出し、俺は言われた通り『素』全開。
だからなか?あまり疑われている感じは(今のところ)受けない。
『逆にあなたが女性っぽいのは見るに堪えません』
と、一言余分な瑠華ちゃん。クスン……俺だってホントは瑠華ちゃんのカッコいい(?)彼氏だけでありたいのに…
とイジけてる暇もない。
「どうぞ」
俺はにこにこ笑顔を全開にして、女にコーヒーカップのセットを差し出した。
その笑顔に偽りの『棘』と言うスパイスを効かせて。