Fahrenheit -華氏- Ⅱ

「……Josh(ジョシュ)のことも心音から?」と瑠華が真剣に聞いてきて、俺はそれにも素直に頷いた。何だか酷く真剣…と言うか深刻そうだ。


「Sigh…(はぁ)」と瑠華は小さくため息。「心音も……何を考えているんだか……私はその事実を知っていますが、先ほども言った通り彼女の前ではNGなんです。彼女がメディア嫌いなのは、掘り起こされたくない過去をさらされるのを避けるためなんです」


え……


じゃぁ何で『嘘』とか言ったんだよ!


俺をおちょくって楽しんでるのか!?


「じゃぁ『尾藤』と言う名前は?」


「心音の“最後”の里親の苗字です。今はそのご両親も亡くなられていますが。何せご高齢だったので」


『最後の』と言うことは、それまで何回か里親を転々としていたと言うわけか。


「州によって異なりますが、孤児を引き取ると幾らかお金がもらえるんです。その為に悪質な家族に引き取られたことも何度か……


劣悪な環境で、更に虐待する里親も居たみたいで、心音はElementary School(アメリカで言う小学校みたいなもの)時代には、見えないところに痣をいっぱい作ってました」


虐待……酷いもんだ。聞いただけで吐き気がこみ上げてくる。


「でも、心音ちゃんは底抜けに明るいよね。そんな劣悪な環境に居てあんな元気な子に育ったのは奇跡だよね」


思わずためため息が漏れる。瑠華の方を振り返ると


「彼女のあの性格は、彼女が知らぬ間に身に着けた処世術みたいなものです。何でも明るくこなしていれば、明るい未来が拓ける―――と。


唯一の救いは最後の里親、偶然日本人ご夫婦だったわけですが『尾藤』家で、本当の娘のように可愛がってもらったことですかね。


彼女が引き取られたのはハイスクールの半ばで、その時すでにご高齢でした。病気もあって、心音は献身的にお二人の介護をこなしていました。


決して裕福ではないけれど、『元気になったらあたしが美味しいものたくさん食べさせてあげる』、『元気になったらあたしがいっぱい旅行連れて行ってあげる、世界一周クルーズ旅行なんてどう?』『見ていて?必ずあたしが会社を立ち上げて、すぐにBigになるから』と言うのが彼女の口癖でした。


しかし心音の介護も虚しく、彼らは病でお亡くなりに……その時の心音の落ち込みようは、見ていて辛かった……」


心音ちゃんの………原点はそこだったんだな……
< 585 / 605 >

この作品をシェア

pagetop