Fahrenheit -華氏- Ⅱ


佐々木から“デート”と言う単語を聞いて、何となく流れで聞いてみた。


「で?どうよ、最近」


「どうって……?」佐々木は本当に俺が言わんとしたことを理解できなかったようで


「瑞野さんだよ。お前狙ってたんじゃないのか?進展は?あったンか?」回りくどい言い方をせず、ストレートに聞くと


「………ああ」と佐々木は気のない返事。


何だよ、もうフラれたのかよ。俺は憐れむつもりで佐々木のグラスに空になったビールジョッキを合わせた。


「てかフられてないですからねっ!」と佐々木は全否定。


「え!?じゃぁうまくいってンの!?」と聞くと


「……それもありません」と、またも白けた目で重ね合わせたグラスを見る。


「じゃー…」どういう意味…と聞こうとしたとき


「何か……何て言うかフロアが違うし、そもそも僕は秘書課に頻繁に用があるわけじゃないし、食堂とかでも会わないし……気付いたらぶっちゃけ僕…あんまり瑞野さんのこと知らないって言うか…」


「まぁふつーはそうだよな」


「そんな中でどうやってアピールすればいいんですか?彼女を狙ってる男がたくさん居るって僕噂で聞いてるし。僕なんか…相手にしてくれませんよ……」


ははぁ。告白する前に諦めたクチか。


「ま、人には人のペースってのもあるしな。俺や裕二と違ってお前奥手だし」と、ちょっと同情気味に言うと


「そうゆう部長はどうなんですか?恋人……とか…?」


佐々木は『恋人』と言うところをやけに強調して言った。


「別に~、ボチボチよ」と俺は適当にはぐらかせた。


佐々木は俺と瑠華が付き合ってると、まーだ勘ぐってるようだ。


だけどはっきりと確信を持てないのは、決定的な証拠がないからだ。それに瑠華は俺に超!が付くほど冷たいし。


「じゃぁ……僕…柏木さんいっちゃおうかなぁ」


独り言のように見せかけて、俺にカマ掛けてるのは分かった。分かったケド!!


「何でまた柏木さん?お前も気が多いヤツだな」と平静を……保ったつもりが、せっかちにベルスターを押し、店員を呼びつけると「生(ビール)お代わり!」と乱暴に、メニュー表を指さし。


「やっぱり部長も……」と佐々木が疑わしそうに目を細めてきて、俺は視線を宙に泳がせた。


だが佐々木の次の言葉を聞いて、俺は顏を戻すことになった。




「柏木さん……新しい彼氏できたっぽいですね。


部長も狙ってたんでしょう?柏木さんのこと。残念ですね」




は――――………?


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