Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺は瑠華に男の影があるのか探っている佐々木の話題から何とか話を逸らそうと
「ニューヨークには居酒屋ってないの?」と向かい側でさりげな~く聞いた。
「あちらではバーかPublick House(パブ)しかありませんね。レストラン的なダイナーではお酒が出る処もありますが、食事がメインでして」
「へ~そうなんですね~」と佐々木が物珍しそうに頷く。
「なので日本に来て……初めて居酒屋なる所にきたのは歓迎会をしていただいた時でした」
へー、それは知らなかった。てか居酒屋デビューだったらもっと良い場所選んだのな~
「日本はアルコール天国ですね。居酒屋さんがたくさんあって驚きました。あ、あと日本に来て驚いたことがもう一つ」と瑠華はすんなりときれいな人差し指を立てた。
「ビールが冷えてるんです」
瑠華の言葉に佐々木は目を点。俺も点。
海外行ったことは結構あるけど、そいやぁビールってほとんど飲まなかったな。
「え、それって当たり前じゃないですか?」と佐々木がびっくりしたように目を丸める。
「あちらではビールは常温が多いので、私も常温を好んでいましたが、日本のコンビニでは冷えたビールしかなくて、最初は戸惑いました。最近は慣れましたが」
と言った瑠華のジョッキは空になっていて
「次何する?」と俺がメニューを手渡すと「同じもので」と瑠華が短く言い
「佐々木さんも空ですね、何か頼みます?」と佐々木にまで気を使う瑠華。
優しいケド…
「佐々木はあんま飲めな…」言いかけた所を俺が差し出したメニュー表を佐々木は奪い
「まだいけます!」と言いたげに目を吊り上げた。
好きな女よりも酒が弱いのがイヤなのか?
やめとけ、やめとけ。瑠華にまともに張り合える男なんて居ない。俺すらついていけない時があるからな。
とは言え、瑠華も佐々木があまり酒が得意じゃないことを何となく知っているのだろう、佐々木が開いていたメニューを覗き込みながら、
「チョコレートリキュールとかどうでしょう。飲みやすそうですよ?」
思いがけず近づけた距離に佐々木の心臓から「キュン」と言う音が聞こえた気がした。