Fahrenheit -華氏- Ⅱ

結局、佐々木は瑠華に勧められたチョコレートリキュールを頼み、ビールに飽きた俺は焼酎ロックを頼むことにした。


「驚いたことと言えばもう一つ」瑠華が焼き鳥の串を手を伸ばしながら言い、俺と佐々木は瑠華を注目した。


「佐々木さんのチョコレートリキュールを見て思い出しました。こちらのチョコは驚く程甘くなくて、びっくりしました」


「ま、まぁ?それは何となく分かる気がする。向こうは砂糖の塊か!ってぐらい甘かったしな」


「そうなんですね」と佐々木が頷く。


「チョコにはPEAと言う成分が含まれていて、ひとが恋をしたときに脳の中に作られる化学物質と同じようですよ」


「「へ~!!」」今度も俺と佐々木の声が揃った。てか佐々木とリンクしても嬉しかないっての!


「だからチョコを食べるとリラックスできるんです。自分が恋愛していると、錯覚を起こすことも…


ほら、恋愛中って一番楽しいじゃないですか」


瑠華は串に刺さった鶏肉を口に入れ、それを咀嚼して呑み込むと、紙ナプキンで口元を拭いながら


「結婚したら全然楽しくないですけどね」とボソッ。俺にしか聞こえない小声だったから瑠華の口が動いても佐々木は不思議そうに首を傾けている。


あ、あはは~……


俺は思わず頭の後ろに手を置いた。


瑠華は―――向こうで甘いチョコを好んで食べたのだろうか。


マックスとの冷え切った関係をチョコで埋めようとしたのだろうか。


考えて慌てて頭を振った。


やめやめ!せっかく楽しい飲み会が暗くなっちまう。


二杯程ビールを飲んだ瑠華は「すみません、ちょっとお手洗いに」と席を外した。


その隙に佐々木が悲しそうに眉を寄せ俺を見てくる。


「チョコの話って……遠回りに僕はフラれたってことでしょうか。柏木さんは僕が彼女を好きなこと、気付いてるんでしょうか…」


「さぁ、でも深い意味はないんじゃない?」


と何故かフォロー。佐々木の気持ちを瑠華は知ってるかどうか……分かんねぇけど、他部署の男共から言い寄られても冷た過ぎる対応で追っ払ってたからな。その点佐々木には気を許していると見えるし。




「お前の気持ちは勘違いじゃねぇよ」




俺は目を伏せてほんの少しだけ笑った。


悔しいけどな。チョコを食べてなくてもお前の視線はいつも瑠華に向いてたから。


と話しあってる最中に瑠華が戻ってきた。俺たちの会話は当然聞こえてないわけで、また自然に佐々木の隣に腰を下ろしたが、視線は俺の方を向いていた。


「部長の焼酎はどんな味がするのですか」と届いたロックグラスを物珍しそうに見つめる瑠華。


「俺は割と芋が好きだけど、飲む?」と勧めると


「いただきます」と素直に受け取ってくれた。


か、間接キス!今度は俺の方がキュンっとなった。


てか今更間接キスぐらいでキュンキュンくる俺、どうよ……


それが気に入らなかったのか佐々木は


「そう言えば部長の彼女はどんな人なんですか」と攻撃先を俺に向けた。


瑠華と付き合ってるんじゃないか、とまだ疑ってるんじゃないかと思ったが、どうやら違うらしい。


「俺?俺はまぁ…」と言葉を濁すと


「去年付き合ってた年上美女とはまだ続いてるんですか?」と目をぎらつかせて聞かれて


てか佐々木…怖ぇえよ。


年上美女ってのはアレだな、紫利さんのことだよな。一度だけ紫利さんとデートする際待ち合わせたとき、佐々木も一緒だった。


「あー……まぁ?」俺は適当に流したが


『違う、違う!』


とまたも目合図で瑠華を見つめると、今度は通じたのか


「そうだったんですね」とあっさり頷いた。瑠華は紫利さんにも会ってるし、そもそも一年前なんて時効だ。


佐々木の恋バナ…正直言って面倒くさい。


と若干疲れを滲ませていると、佐々木はトイレに立った。


チャーンス!!と言わんばかりに俺は瑠華を見つめた。


「さっきのあれ、嘘だかんね」と声を低めて一応言うと「分かってますよ、紫利さんのことでしょう?」と瑠華は苦笑。


あ、通じてて良かった!

< 610 / 646 >

この作品をシェア

pagetop