Fahrenheit -華氏- Ⅱ

会社には昔からの血族が集まった“神流派”と後から参入した“緑川派”があることを。どちらも血族で緑川派が参入してきてからも、血筋は受け継がれている。


「Hmmm.(ふーん)これだから企業に居座るのは面倒だわ。その点あたしはフリーだから楽よ?」


心音がFahrenheitから独立したのもここの所も理由に含まれているだろう。


Fahrenheitは神流グループのような派手な派閥争いは無かったけれど、それでも時々グループの意見がぶつかることもあった。けれどそのどれもが会社経営の戦略で揉めた程度で、後はわりとさっぱりしたものだ。グループがあると言ったけれど、お互いいがみ合うことはなかった。


神流グループは表面上では仲が良さそうな雰囲気ではあるが、裏に様々な黒い思惑を巧みに隠している。


噂で聞きかじった程度だけど啓のおじさまと緑川副社長がいい例だって。


「けど、その問題が何?」と心音が訝しそうにして背もたれに深く背を預ける。


「あたしたちの計画が上手く行ったら、それこそ啓やおじさまに飛び火する」


「上手く行ったら?失敗したら、じゃないの?」心音は怪訝そうに眉間に皺を寄せる。


あたしはここに来て、案件の全てが各部署で作られ、それは最終的に会長の元に行く。そして会長の決済が降りて、初めて行動できることを語った。きっと、ほとんどの大企業がそのスタイルだろう。


「まぁ、それは分かるけど。Fahrenheitでもそうだったじゃない。それの何が問題?」


ここであたしは二村さんが副社長の娘である緑川さんを手玉にとって副社長の座を狙っている、と言うことを聞かせた。


「どこにでもいるのね、そういう野心を抱いた男ってのは」心音はどこが面白いのか明るく笑う。「嫌いじゃないわ、そういう男」


「笑いごとじゃないわ。二村さんは秘書課の瑞野さんと言う女性とも関係があるの」


「Wow…二股?ドロっドロね」


「瑞野さんは秘書課で、稟議書を見ることが出来る。瑞野さんに通じている二村さんに情報を流すのも可能」


「なるほどね」


今日の二村さんのあの様子なら、今日あたしと緑川さんが会ったときの内容を、必ず緑川さんに問い詰めるだろう。今日何を話したのか。緑川さんと交際がうまく行っている彼にとって、神流派のあたしが近づくのは危険だと察知している筈。


彼はあたしが鬱陶しいのだ。いや、いっそ消えて欲しいと願っているだろう。


あのにこにこ無邪気な笑顔の下、ひた隠しにしている醜い企み。





「あの男は必ず、あたしたちの計画のほころびを見つける」





あたしは再びスコッチをぐいと飲んだ。燃えるような熱さが喉を通ったけれど、それは紛れもないあたしの“怒り”の感情が交ざっていた。
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