Fahrenheit -華氏- Ⅱ
心音の言葉は素直に嬉しかった。あたしを“親友”と言ってくれたこと。これまであたしの計画に一生懸命に付き合ってくれたこと。
けれど
「中止にはしない」
あたしはスコッチの入ったロックグラスをテーブルに置き、前屈みになり膝の上で手を組んだ。
「でも、瑠華の言ったことが事実なら間違いなくあんたは…」言いかけた言葉にあたしは被せた。
「あたしたちの計画にわざと“穴”を作るの。二村さんは必ずその“穴”に気付いてあたしを攻撃してくる筈。でもつついてきても決済が降りなければ、啓やおじさまに迷惑を掛ける前に阻止できる」
「じゃぁあんただけが泥を被るってわけ?」
「いいえ、穴をつつかせない。あたしは―――二村さんを
穴に落としてやるわ」
緑川さんを弄び、利用して這い上がっていく薄汚いドブネズミ。ちょろちょろとうろつき、しかしネズミは繁殖力が高い。きっとこのままだと派閥がひっくり返るのは時間の問題。
あたしがはじめて“怒り”を感じたのは、今日、緑川さんの話を聞いたとき。
緑川さんの気持ちを踏みにじり、挙句利用して、それに気付いた彼女はどん底に陥るだろう。
マックス―――
あんたの浮気癖には随分悩まされ、挙句、卑怯な手でユーリとFahrenheitを奪っていったけれど、あんたは真向から向かってきた。あたしに牙を剥いた。さながら獲物を捕らえるライオンのように、ね。
薄汚いドブネズミではなかった。
そこまで地に堕ちた男ではなかった。
そこだけは認めてあげる。