Fahrenheit -華氏- Ⅱ

「早いね~」


と問いかけると、瑠華は会社では見ないメガネ姿で顏を上げ


「ええ、昨日早く帰ってしまったので、少し早めに出勤しました」と生真面目な返事はいつも通り。


「部……啓こそ」


あのさぁ、その『ぶ』って言ったあと『啓』て言い直すのやめてくれ。


“ブサイク啓”て言われてる気がするじゃん!


若干顔を引くつかせながらも、俺は自分の席に腰を下ろした。


でも?社内で『啓』って言ってくれて嬉しいかも。


デスクの上、頬杖をついて瑠華の整った横顔を眺める。


会社ではメガネはやめて欲しいな…


いや、メガネもね!文句なしに似合ってて可愛いんだけど。


しかもメガネまでお洒落で、ティファニーのメガネは表の赤枠の後ろ、つまり裏枠はティファニーブルーと言うシャレオツ(←死語??)だしな。


メガネ姿は俺だけが知ってる、ってちょっとした自慢(?)だったけど。


そんなプライベートな姿、他の社員に見せるなよ、とちょっとした嫉妬。


「啓」


熱心に新聞を読んでいた瑠華がふと顔を上げた。その顏には相変わらずの無表情が張り付いている。


「ん?」


「心の声、駄々漏れです。口に出てましたよ」


ぅを!


俺は慌てて口を押さえたが、瑠華はちょっと笑って、


「後でコンタクトにします。持ってきているので」とバッグの中をごそごそ。


俺の要望……て言うか独占欲みたいな……こんなの初めて、ってぐらい俺自身戸惑うことがあるが最近は少し慣れてきた。


瑠華も俺の嫉妬心や独占欲に応えてくれる。


それが最近ではちょっと…と言うか、かなり嬉しい。

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