Fahrenheit -華氏- Ⅱ
眼下に広がる、眠らない東京のごちゃごちゃとした街…ではなく俺は今日ばかりは空を見上げた。
淡い淡い…言うならばラベンダー色のカーテンをひいたような空、淡い淡い…言い表すならパステルブルーと言ったところか、その微妙な色合いが絶妙に交ざり合っていた。
「る、瑠華!瑠華!」
思わず瑠華を手で招き呼び寄せると、瑠華は怪訝そうな顔をしながらも俺の隣に立った。
「見て、夜明けだ」
「ホントだ」
瑠華も目を開いて窓枠に手を置いて身を乗り出す。
初めてダイヤモンドを見たような目つきで目を輝かせ
「素敵……」とそっと呟く。
「サイコーだよな」
俺が瑠華の方へ笑顔を向けると
「ええ、最高ですね」と瑠華が華のような笑顔を浮かべた。
それだけでノックダウンしそうだったが、でも……ふざけてる場合じゃなく、夜明けの……ほんの僅かな間を背景に瑠華の輝かしい笑顔は、そのまま額縁に入れたい程きれいだった。
俺たちは隣合って夜明けを見つめていた。
前を向き、しかし俺は瑠華の手にそっと自分の手を重ねた。瑠華もそっと俺の手を握り返してくれる。
「あたし、ここから見る空が好きです」
一言呟いた言葉はどこか儚げなのに、言葉の底に力強い何かを感じた。
「俺も」
手を握り、指を絡め、しかしそれ以上のことはしなかった。
ただ、この美しい光景を愛しいひとと共有できる、重ねたてのひらで彼女の体温と俺の体温がまざりあう、それが一番の幸せなんじゃないの。