Fahrenheit -華氏- Ⅱ
お……
大人の対応じゃない!?
瑠華の言葉に
「「えっ!!?」」
俺と二村の声が揃った。ハッキリと言われた二村も流石に動揺したようだ。
しかし瑠華は書類の束を整えながら
「ジョークです」と付け加えた。
ジョーク……そっか…
てかその顔で『ジョーク』って言われてもなぁ。
二村はちょっと驚いてたようだが、またもにこにこ人懐っこい笑顔を浮かべながら
「柏木さんでもジョークとか言うんだね」と素早く瑠華の元へ駆けよる。
瑠華はちらりと二村を見やっただけで
「そもそも私は二村さんを“好き”や“嫌い”で区別出来る程、あなたのことよく知りません」
と、相変わらずブリザードが吹きそうな冷たさ。
「そっか~、だったらこれから知っていけばいいんじゃない?」と二村は瑠華の氷点下並の対応にも堪えない。
「そんな時間がありません。私も暇ではありませんので」とこれまた北極のどん底に落とされるぐらいの冷たい答え。
「あ……はい…」
と流石の二村も言い返す言葉が無かったのか、頭の後ろを掻きブースを手でいこうとしたが、
思い直ったようにこちらに振り返り
「そう言えば、緑川さんが喜んでましたよ。欲しかった口紅貰ったって」と含みのある物言いでニヤリと笑う。
二村……昨日もシロアリ緑川と会ってたのか。
俺の眉間に皺が寄るのが分かった。俺は―――二村とシロアリが付き合ってることを知ってるが、二村の中で瑠華は二人の関係を知らない筈なのに―――まるで瑠華が気付いているような口調。
まぁ実際そのずっと前からシロアリと二村の関係は知っていたが…
「彼女に言っておいてください、もっと素敵なリップたくさん持っていますので、いつでもご相談に乗ります、と」
瑠華が書類の束を手にしながら立ち上がる。相変わらず表情の読めない淡々としたものだったが、それ以上に深い意味がある気がしてならない。
「リップ?」俺が目を上げると
「おはようございますー」とタイミングが良いのか悪いのか、佐々木が出勤してきた。
「おはようございます」と瑠華は相変わらずの無表情だったが佐々木にきっちりお辞儀をする。
「柏木さん、どこかへ行くんですか?」と今、尚席を立って書類を抱えどこかへ向かおうとしている瑠華を見て佐々木は他意のない興味で目をぱちぱち。
「秘書課へ。先ほど綾子さんからメールをいただいたので。決済が下りたと言うご報告を受けまして」
へー…そう…
てか仮にも“部長”の俺を差し置いて、瑠華に直接メールするとか!綾子も舐め腐った真似しゃがって!
稟議書は口実で、綾子(あいつ)は瑠華と朝のコーヒータイムをしたいだけに決まってる!
ブツブツ言いながら俺は瑠華を見送り、二村もそれ以上何かを言ってくることなく、やがて始業時間を迎えた。