Fahrenheit -華氏- Ⅱ
菅井さんをキッチリお見送りして、俺は自部署がある8Fへと戻った。
心音ちゃんの出現でいっときは心臓が参っちまうかと思ったが、何とかうまく(?)まとめられた……気がする(←弱気)
さて、仕事後の約束もできたわけだし、今日は長々と残業する余裕もない。ちゃっちゃと済ませよう、と急ぎ足で部屋に戻ろうとしていたら
給湯室の中から女子二人の笑い声が聞こえてきた。
別段、女子社員のお喋りに注意するつもりもないし、一々気にすることもない。
―――が…、中から聞こえてくる女の笑い声の一つが瑠華のものだと気づいて、俺は興味深く給湯室の中を覗いた。
思った通り瑠華は、確か……総務部の…女子社員と談笑中だった。
意外な光景だ。瑠華はこの会社で佐々木と綾子以外、男でも女でも誰かと親しそうに喋ってる姿を見たことがなかったから。
「あ、部長!お帰りなさいませ」と、最初に俺の存在に気づいたのは総務部の女の子。
瑠華は、その子の言葉でようやく振り返った。
「お疲れ様です」とさっきまで楽しそうにしてたのに、急にいつものクールモードに入った瑠華ちゃんは声を1トーン下げて頭を下げる。
「それではまた。楽しいお話をありがとうございました」と瑠華は総務部の女の子に一礼して、さっさと俺の横を通り抜ける。社内恋愛がバレたら面倒だと思ってのことだろうから、必要以上にクールに接してる……と思いたいが、恋人同士じゃなくてもきっと彼女はこうなんだろう。
クスン、啓人くん悲しい……
「私もありがとうございます。紅茶ごちそうさまでした!」女の子も瑠華の背中に声を掛ける。
「紅茶?何話してたの?」
俺は、俺なんかを無視してさっさと行っちゃった冷たい恋人よりも、その愛する人が何を喋っていたのか、の方が気になって女の子の方へ歩み寄った。