Fahrenheit -華氏- Ⅱ
『ごめん、瑠華。また電話する』
彼の申し訳なさそうな声を聞いて、あたしは我に返った。
あたし―――なにを言おうとした……?
これは個人的なことなのに。
啓を巻き込んではいけないのに。
それでも時折妙に不安をもたげるその感覚に、思わず縋りたくなる。
「いいえ。あたしは今からシャワー浴びるので。またこちらから電話します」
そう言って電話を切った。
暗い部屋で一人閉じた携帯を見つめる。
例え違う人がかけてきても、声を聞けて嬉しかったわ。
この昂揚した気持ちに覚えがある。
―――それはかつて愛した男に抱いた気持ちを同じものだった。
この先どんな裏切りが―――二人を引き裂く運命が待ち受けていようと
どれだけ傷つけられようと
このとき抱いた気持ちは本物だったことは
忘れたくない。